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掌篇★ガチャポン

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「花」

 銀色の髪が水中でゆらりと広がる。いつもは柔らか過ぎてふわふわとまとまらぬ髪も生き物のように滑らかな曲線を描き泳いでいる。
 小さな丸い顔、ふっくらした唇には鮮やかな紅化粧が施され、おどおどと気弱な光を湛えた大きな瞳は閉じられて長い睫の翳を頬に落としている。細い躯と薄い胸、たよりなく華奢な手足、その全てが白く透き通っていた。
 本当にあれが、泣き虫のあの子だろうか?
 少年は人混みの陰から眩しげに見つめていた。
 少年の手には婚礼祝いの贈り物が握られていた。それは彼が初めて作った細工物で、金色の魚が刻まれた美しい櫛だった。


 白く光る装束に包まれて、内側から灯されたようにまばゆく輝く少女。おそらくは骸に集まる夜光蟲の仕業だろう。
 極彩色の花々が彼女を取り囲んでゆっくり流れていく、神楽の音と祝い女の高く細い猫のような唄声。低い読経がそれに重なる。辺りにただよう甘く濃密な香の匂い。
 少女は真珠蛾の繭から錘がれた糸で織られた特別な衣を纏っている、めでたい婚礼の日だ。
 村の依代に乗り移った神によって彼女が選ばれた時、少年は嫁入りが何をさすのか知らず、幸せを願って少女を諦めた。少女は貧しさ故に家族の為を思い、従容として運命を受け入れた。
 少女は食を断ち、禊を済ませ、全身に香油を塗り、美しい装束に身を包んで神殿で跪いた。巫に手渡された盃を受け取って神との契りの酒を一息に飲み干すと少女の裸足の爪先から、刷毛ではいたようにすうと血の気がひいていき、誓いの言葉の代りに真紅の血を吐いて、前のめりに倒れこんで神との婚姻が成立した。
 先に逝った魂の後で躯を神の御許に流し、平和と豊穣を約束する儀式は終わった。
 彼女の幼い妹は姉の美しさに目を見張り、母親は涙を流して放心した。父親はその肩を抱いて痛みに耐えるように河辺にじっと佇んでいた。
 花を従えた婚礼の行列は滝の前で流れを速め、ふいに引き込まれるようにして水底へと姿を消した。
 人々はそれを見送った後、花嫁の美しさを口々に讃え、安心した面持ちで家路についた。
 しばらくして、河辺から「ぼちゃり」と大きな水音が聞こえたが、魚でも跳ねたのだろうと誰も気に留めなかった。

 その日以来、少年の姿は村から消えた。
 その後、河では度々巨大な魚が目撃されて神の使いだと噂され、村人達に恐れられた。
 少女への供物を河に流しに行った母親が、黄金の魚の背に乗った二人の姿を見たという。


 今では、河は干上がり、村人も絶えた。
 草原に金色の野花が、ただ揺れるばかり。
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