掌篇★ガチャポン

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「喜雨」

 連日、真夏日が続き、貯水池の水位がみるみる下がり、各地で節水が叫ばれ始めた頃、夜半に激しいスコールがあった。


 金曜の夜に暑気払いと称して同僚としたたか呑んで自宅の最寄り駅に帰り着くとバケツの底が抜けたような土砂降りでタクシー乗り場は長蛇の列だった。これでは何時間かかるかわからない、悠長に待っていられるものか。
 酔っぱらいの軽はずみで歩き始めた直後、強風に煽られたビニール傘は骨と皮が生き別れになり、透明な皮だけがバタバタと羽ばたきながら彼方へと翔び去った。
 駅前公園の敷き石に豪雨が降り注ぎ、それが強風におされて風紋が波のようである。街が海になっている、地表が波打ち際になって風が吹く度に波が打ち寄せる、強風に拐われそうだ。酔って火照った身体を打つ雨が心地良い、いっそ服を脱いだら楽だろう。魔物のようにうごめく街路樹、縦横に天を貫く稲妻、一足遅れで鬼太鼓のように激しく轟く雷鳴。白くけぶる雨の中を尾をひき流れる黄色や赤のヘッドライトやテールランプ。


 一際大きな稲光が電線に落ちたようで近くで派手に火花が散り、一拍おいて耳をつんざく轟音が鳴り響いた。しばらく歩くと足元からシャーシャーと音がして、見ると小指大の青いトカゲがしきりにこちらを威嚇している。口から線香花火のような細い火花をパチパチと吐き出す様に哀れをもよおして上着のポケットに入れるとしばらく暴れていたが、そのうちに大人しくなった。
 豪雨と小雨が交互にやってきて、そのたびに見える景色がかわる、厚さの違う雨のカーテンを幾重にもくぐり抜けて、やっとマンションに辿り着くと全身ぐしょ濡れで靴の中で金魚が飼えそうだ。紙袋は底が抜けてただの筒になっていた。 帰宅するなり、皮膚と一体化した服をはがして洗濯機に放り込み、スーツを浴室に吊るし、革靴に丸めた新聞紙を詰めて、身体を拭いて乾いたTシャツに着替えてベッドに倒れこんだ。遠泳の後のように全身がだるくて、そのまま深い眠りの渕に沈みこんだ。


 翌朝、ドアを叩く音で目醒めた。
 白い天井で反射光がきらきらと踊っている。
 床に足を下ろすと踝まで水に浸かった。
 ベッドの下が浅いプール化していて、その中を腕程の太さの青い龍が泳いでいる。
 まだ、酒が抜けていないようで頭が痛む。
 龍が水面に顔を出して澄んだ水を噴水のように勢いよく吹き上げた。それを掌に受けて口に運ぶとえもいわれぬ甘露で、五臓六腑に染み渡り、たちまち頭痛が楽になった。
 ドアを叩く音は次第に激しくなっていく。
 龍の水飛沫に窓からの日射しが反射して室内に七色の虹がかかった。ああ、きれいだ。
 私は夏布団を頭から被り再び眠りに落ちた。
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