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掌篇★ガチャポン

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「移動祝祭」

 ある夏、ひなびた貧しい田舎町の埃っぽい空き地に巨大な天幕が現れた。
 闇のように黒いピラミッド型の天幕の横には、甲虫に似たトレーラートラックが幾台も蹲り、辺りはしんとして物音一つしなかった。
 うだるような暑さの一日がようやく暮れ、空が焼け落ちる頃、極彩色の人影が天幕からぞろぞろ這い出した。
 真っ赤な夕陽を背に筋骨逞しいジャグラーが松明を高く投げ上げ、老楽士が手風琴でジンタのメロディを奏でた。きらきら光る衣装を纏った肌も露なシャム双生児の美女が唄い、侏儒の道化師がチケットを撒いた。
 「サアサア、今宵一夜限りの特別興行だよ! 開幕は午前零時。見逃したら一生後悔すること受けあいだァ」
 寂れたメインストリートを練り歩いた。
 
 待ちに待った夜が来た。鼾をかく親達を尻目に子供達はそっとベッドを抜け出した。都合の良いことに、その夜に限って大人達はぐっすりと眠っていた。
 満月の金色のスポットライトの下、空き地には華やかな色彩と陽気な音楽が溢れていた。
 ジェットコースターと観覧車、メリーゴーラウンド、射的にロケット、色とりどりの風船とふわふわのコットンキャンディ、溶かしバターのたっぷりかかったポップコーンや甘いアイスクリーム、恐竜に怪物。子供達の大好物がオイデオイデと手招きをした。
 夏の浮かれたぬるい空気を漕いで幼い兄弟姉妹は手を繋ぎ、興奮に薔薇色に頬染めて我先に空き地を目指した。赤ん坊と病人以外は町中の子供達がつめかけた、チケットの無い子は赤い瞳の座長がマントの蔭に隠して入れてくれた。
 「いよいよ、世紀のショウの幕開けだァ! サア、急いだ急いだ、もうすぐ始まるよう」
 皆、踊るような足取りで天幕をくぐった。
 
 場内を縦横に駆け巡るピンスポット、ドラムロールが高らかに鳴り響く。子供達の歓声、獣達の咆哮、悲鳴、悲鳴、悲鳴、天幕に飛び散る夥しい赤、赤、赤。
 そして、子供達は闇に呑み込まれた。
 
 翌朝、天幕は跡形もなく消え去った。貧しい町は突然に潤い、人々の暮らし向きは楽になった。子供達の痕跡は消え、大人達は何事もなかったかのように口をつぐみ、単調な日々の営みを繰り返した。
 以来、午前零時をまわると家々の窓を風が叩き、遠くからジンタが流れてくるようになった。弾けるような嬌声や囁き、啜り泣きが聴こえ、赤い瞳が家の中を覗き込み、外壁や板戸には引っ掻き傷や小さな赤い手形が幾つも捺された。
 人々は鎧戸を固く閉ざして耳を塞ぎ、風のパレードが通り過ぎるのを待った。
 オイデ、オイデ、イッショニ、イコウヨ
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