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掌篇★ガチャポン

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1200字小説『ブックマーク』

20081108134853
 

 ブクは前足の先だけが足袋を履いたように白い、どてっと肥った黒猫だ。いつも茶の間の箪笥の上に鎮座していて、金色の瞳で辺りを敝睨し、母の寵愛を欲しいままにしている。畜生の分際でとても賢く聞き分けの良い猫だ、私以外には……。
 朝、顔にペタリと冷たいものが当たる。生臭い匂いがし、頬を手で払うとワキワキと蠢いた。目を開くと茶色い蜥蜴だった。悲鳴をあげると母が飛んできて、蜥蜴を掴んで「よしよし、偉いねぇ」なんてブクを撫でてる。
「蜥蜴と馬鹿猫捨ててきてよ!」
「馬鹿娘、ブクちゃんのプレゼントだよ」
 怒声に懲りもせず、ブクは貢ぎ続ける。半殺しの蝉、バッタ、鼠、小鳥、ゴキブリ。
 いい加減にして欲しい! 一度などはサキイカを袋ごと捕って、いや多分、盗ってきて、この時はさすがに母も叱っていた。

 ブクを触ると身体中の皮がつれていて、傷だらけなのがわかる。右耳は千切れているし、尻尾は折れたまま鍵状に曲がっている。
 小学校の帰り道、ごみ捨て場に積まれた古本の間で黒いものがピクピク動いていた、覗きこむとボロ布みたいな血まみれの仔猫だった。本に乗せて持ち帰り母に見せたら、即病院に運ばれてうちの子になった。
 本から垂れる尻尾を見ていた姉が“ブックマーク”と命名した。長いので縮めてマークと呼んでいたが後にぶくぶくと肥え太り、今ではブクと呼ばれている。
 両親や姉には擦り寄り「うにゃ?ん」と甘い声で媚びていたが、私は気持ちの悪い貢ぎものを捧げられて邪魔ばかりされていた。
 私がノートや本を開いているとやってきて、その上に横たわりテコでも動かない。本棚からお腹に飛び降りて起こされることもある、ボディーブローがじわじわ効いて終日調子が悪かった。なぜ私ばかり? 悔しいので耳や尾をひっぱったり、髭切りの刑に処した。

 明け方に腹部へのアタックで目が醒めた。部屋中に焦げ臭い煙が充満している、煙の向こうに黒い影が見えた、ブクだ。ニャーニャーと匍匐前進して私を先導する。タオルを口にあて私はブクに従った。マンションの壁を破り、突入した消防士に私は救出された。だが案内したブクはどこにも居なかった。
 両親と姉と私は助かったのに、ブクは真っ黒い煙と一緒に消え失せてしまった。
「ブクはあんたが大好きだから、きっと本望だよ」そう姉が慰めた。
 嘘だ。いつだって私の邪魔ばかりして仏心で拾わなきゃ良かったと後悔していた。度々虐めたし、そんな筈はない。あいつはただの畜生だ、心を持っていかれてたまるものか。

 新居は一階で猫扉がついている。茶の間の箪笥の上には座布団。私の机には、いつでも本が開かれたままだ。

■■■■■■■■■■

 上は、WEB幽の読者投稿怪談『本』テーマに応募して没になった作品です。
 確かに怪談味が薄いかもしれません。

 作中の猫『ブク』は、友人知人の猫三匹と実家で飼っていた犬がモデルで、そのうち三匹はすでに鬼籍に入っています。
 モデルは佐助、茶太郎、ママ(以上、猫)、トム(犬)。

 先日、会社の消防訓練に参加して初めて消火器を噴射しました。(ちなみに中味は水です)
 意外に取り扱いが簡単でした。消火器一本で放射出来る時間は約十五秒間で薬液は六メートル位飛ぶそうです。
 消火器で消せるのは、天井につかない炎までで、火が天井についたら速やかに逃げましょうと消防庁の方に言われました。
 また消火器を横にして振っても中味が移動しない場合は固まっているので買い換えましょうとの事。

 俗に、お酉様が三の酉まである年は火事が多いと言われています。今年は火の元にお気をつけください。

「マッチ一本火事の元。戸締り用心、火の用心」
 最近は、拍子木を打ちながら夜回りする声を聴きません。

■画像は招き猫作家『もりわじん』さん作の招き猫。寅猫が二センチ、黒猫が三センチ位です。黒猫はシトみたいですが、一目惚れして飼い(買い)ました。
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1200字小説『沈黙(しじま)の記録書』

 そは言霊の檻にして霊廟、全ての声音の褥、永遠の静寂にして真理、数多の知識の基といわれ、知を求める者達の間で幻の書とも禁断の書とも伝えられてきた。だが誰も手にした、読んだと語る者はいない。一体いかなる言語で記された書なのかさえ解っていない。
 伝承によれば、その本はぬばたまの闇に隠されていると云う。また、ある者は砂漠の砂中深く眠ると語る。流浪の民の語りべは決して溶けない万年氷の下だと真しやかに吟う。
 巷間に流布する噂や伝説を丹念に選りすぐり検証すると一本の細い線へと辿り着く。
 私は僅かな手掛かりを頼りに倫敦の下町の古書店を訪れた。馬車を停める場所さえない、狭い露地の奥にその店はあった。鉄の門扉にはラテン語で「この門を潜るもの決して声を発してはならぬ」と刻まれていた。
 出迎えた店主は、山羊髭を生やした老人で耳が不自由だった。筆談で件の本について訊ねると、確かにここに在るがあなたの思うようなものではないと答えた、噂が独り歩きして困るとも。私は欲しいだけの金額を払うと交渉したが、金以上の代価が必要だと言う。絶対に声を出さないと誓い、階段を降りた。石の扉には「汝、耳に惑わされるべからず」と刻まれていた。石室の中は、あらゆる音に満ち溢れていた。水、風などの自然音から、馬車やプロペラ、蒸気機関の音、人のたてる騒音や音楽……。耳許で囁かれる声は親しい友人達のもので声を潜めて私を嘲笑っている。ふん、人間など一皮剥けば皆そんなもの。唯一絶対は知識のみ、それ以外は無価値だ。
 奥の石壁に木の扉が付いている。やはり、「汝、闇に迷うべからず」と刻まれていた。
 中は完全な無音で、鼻をつままれてもわからないタールのような闇の中を老人に手を引かれて歩む。幽かに黴臭い匂いが漂い、足許がブカブカと柔らかくぬかるんでいく。長時間歩き、腰まで泥に埋もれた頃に奥に白い光が漏れ見えた。触ると紙で出来た扉だ。
「汝、知識に淫するなかれ」指先に言葉が触れた。中は白い広間だった。窓の無い部屋でたくさんの男達が鎖に繋がれて壁に文字を記していた、体を腐敗させて半ば朽ちながらもそれぞれが数字の羅列や歴史、哲学や文学について綴っている。気がつくと私の頸も鎖で繋がれて自らの持てる知識を目前の壁に記していた。私は糸巻きの糸をたぐるように記憶を辿り、一筆毎に体は軽くなってゆく。どのくらい書いただろう、コトリと糸が絶えるように私は空になった。私は糸車の軸となり、軛から解き放たれた。ハッと我に返ると老人に記録書を手渡された。予想外に薄く軽い本で数頁を読んで余りの凡庸さに興味を失った。
 私は倫敦を後にして屋敷に戻り、以後、二度と記録書について語ることはなかった。
 領地を治め、家庭を守り、穏やかな幸福を享受した。だが今でも夢想しては怖気を震う。
 書痴と化し、読みきれぬ膨大な書物に埋もれて恍惚の笑みを浮かべる己の姿を。

■■■■■■■■■■

 投稿作は、改行が少なくて綺麗ではなかったので若干の修正を加えました。本来はもう少し長く書くべき話ですが、書き始めたら毛糸玉が転げるように最後まで進んでしまい、用意していたオチが余ってしまいました。

 読者投稿怪談の『本』テーマは時間があれば、後十篇くらい書けそうで、吸血鬼以来のノリです。私はやはり、「好き」を頼りに書いているようです。このテーマの自作で一番気に入っているのは『人魚姫』の話で、モデルになった右手のオブジェがとても美しかったので思う以上のものが書けました。

「花」

 銀色の髪が水中でゆらりと広がる。いつもは柔らか過ぎてふわふわとまとまらぬ髪も生き物のように滑らかな曲線を描き泳いでいる。
 小さな丸い顔、ふっくらした唇には鮮やかな紅化粧が施され、おどおどと気弱な光を湛えた大きな瞳は閉じられて長い睫の翳を頬に落としている。細い躯と薄い胸、たよりなく華奢な手足、その全てが白く透き通っていた。
 本当にあれが、泣き虫のあの子だろうか?
 少年は人混みの陰から眩しげに見つめていた。
 少年の手には婚礼祝いの贈り物が握られていた。それは彼が初めて作った細工物で、金色の魚が刻まれた美しい櫛だった。


 白く光る装束に包まれて、内側から灯されたようにまばゆく輝く少女。おそらくは骸に集まる夜光蟲の仕業だろう。
 極彩色の花々が彼女を取り囲んでゆっくり流れていく、神楽の音と祝い女の高く細い猫のような唄声。低い読経がそれに重なる。辺りにただよう甘く濃密な香の匂い。
 少女は真珠蛾の繭から錘がれた糸で織られた特別な衣を纏っている、めでたい婚礼の日だ。
 村の依代に乗り移った神によって彼女が選ばれた時、少年は嫁入りが何をさすのか知らず、幸せを願って少女を諦めた。少女は貧しさ故に家族の為を思い、従容として運命を受け入れた。
 少女は食を断ち、禊を済ませ、全身に香油を塗り、美しい装束に身を包んで神殿で跪いた。巫に手渡された盃を受け取って神との契りの酒を一息に飲み干すと少女の裸足の爪先から、刷毛ではいたようにすうと血の気がひいていき、誓いの言葉の代りに真紅の血を吐いて、前のめりに倒れこんで神との婚姻が成立した。
 先に逝った魂の後で躯を神の御許に流し、平和と豊穣を約束する儀式は終わった。
 彼女の幼い妹は姉の美しさに目を見張り、母親は涙を流して放心した。父親はその肩を抱いて痛みに耐えるように河辺にじっと佇んでいた。
 花を従えた婚礼の行列は滝の前で流れを速め、ふいに引き込まれるようにして水底へと姿を消した。
 人々はそれを見送った後、花嫁の美しさを口々に讃え、安心した面持ちで家路についた。
 しばらくして、河辺から「ぼちゃり」と大きな水音が聞こえたが、魚でも跳ねたのだろうと誰も気に留めなかった。

 その日以来、少年の姿は村から消えた。
 その後、河では度々巨大な魚が目撃されて神の使いだと噂され、村人達に恐れられた。
 少女への供物を河に流しに行った母親が、黄金の魚の背に乗った二人の姿を見たという。


 今では、河は干上がり、村人も絶えた。
 草原に金色の野花が、ただ揺れるばかり。

「真神ヶ山」

 見渡す限り青と紫と黄色の風景だ。
 視界からは、赤みが全て消えている。
 

 欠けた色彩を補うように、草木、土、水、風、鳥、動物、虫、魚、数多の匂いが周囲の様子をつぶさに伝えてくる。
 五感は冴え渡り、かつてないほどに躯は軽くバネがきき、面白いように容易く四肢を操れる。爽快だ。俺は山腹を駆けている。


 最後に眠りに就いた時には噛み傷がひどく痛み、全身が焼けるようだった。
 俺は村一番の猟の名手だ。深山で巨大な狼と渡りあって重傷を負い、奴を殺して命からがら家に帰り着いたのだ。
 家族や友人が次々に枕辺を訪れて語りかけたが、ろくに返事もできない有り様だった。唇は乾いてひび割れ、熱にうかされ、喉からは風のような音が漏れるばかり。


 それが目覚めたら、枯れた花と一緒に狭い棺桶に押し込められていた。蓋を壊し、土を爪で掻き、搭婆を倒して地上に出た。
 俺は裸足で変化した山に立っていた。
 匂いを頼りに家路を辿り、懐かしい木戸を叩いた。辺りには母の煮る鍋の匂いが漂っていた、ひどく空腹だった。
 「二郎あんちゃか?」
 五つになる弟の三郎が出迎えた。俺は飛び付いて、気づいたら柔らかな首を喰い破っていた。白目をむき、全身を震わせて次第に力を失う弟の躯から咽喉を鳴らして命を絞り、温かいはらわたを貪っていた。
 母の悲鳴に我に返ると父が「祟ったか、こん化けもんが!」そう叫びながら鋤を向けてきた。俺はくわえていた弟の腕を土間に落とした。強く撲られても不思議と痛みは感じなかった。
 兄に鉄砲で狙われて、俺は唇を濡らしたまま遁走した。
 ぬるりとねばつく弟の血を手で拭い、濡れた指をしゃぶり、新鮮な肉の甘さをうっとりと反芻した。


 今は夜なのだろう。麓の家々には灯りが点っている。
 足元の清流に映る我が身は毛深く荒々しい獣の姿をしている、燐光を湛えた瞳と尖った牙……、ああ、そうか。山が変わったのではなく俺が変わったのか。
 間もなく松明を掲げ、武器を持った村人達が山狩を行うだろう。
 だが、恐ろしくはない。俺はこの山を熟知している。ただ猟の仕方と獲物が変わっただけだ。
 月光を浴びると躯の奥底から歓喜の波が突き上げてきた、俺はたまらずに雄叫びをあげた。それに応えて遥か山々から眷属達の遠吠えが長く尾をひいて響く。 俺は本能の導くままに、群青の闇に分け入っていく。

「喜雨」

 連日、真夏日が続き、貯水池の水位がみるみる下がり、各地で節水が叫ばれ始めた頃、夜半に激しいスコールがあった。


 金曜の夜に暑気払いと称して同僚としたたか呑んで自宅の最寄り駅に帰り着くとバケツの底が抜けたような土砂降りでタクシー乗り場は長蛇の列だった。これでは何時間かかるかわからない、悠長に待っていられるものか。
 酔っぱらいの軽はずみで歩き始めた直後、強風に煽られたビニール傘は骨と皮が生き別れになり、透明な皮だけがバタバタと羽ばたきながら彼方へと翔び去った。
 駅前公園の敷き石に豪雨が降り注ぎ、それが強風におされて風紋が波のようである。街が海になっている、地表が波打ち際になって風が吹く度に波が打ち寄せる、強風に拐われそうだ。酔って火照った身体を打つ雨が心地良い、いっそ服を脱いだら楽だろう。魔物のようにうごめく街路樹、縦横に天を貫く稲妻、一足遅れで鬼太鼓のように激しく轟く雷鳴。白くけぶる雨の中を尾をひき流れる黄色や赤のヘッドライトやテールランプ。


 一際大きな稲光が電線に落ちたようで近くで派手に火花が散り、一拍おいて耳をつんざく轟音が鳴り響いた。しばらく歩くと足元からシャーシャーと音がして、見ると小指大の青いトカゲがしきりにこちらを威嚇している。口から線香花火のような細い火花をパチパチと吐き出す様に哀れをもよおして上着のポケットに入れるとしばらく暴れていたが、そのうちに大人しくなった。
 豪雨と小雨が交互にやってきて、そのたびに見える景色がかわる、厚さの違う雨のカーテンを幾重にもくぐり抜けて、やっとマンションに辿り着くと全身ぐしょ濡れで靴の中で金魚が飼えそうだ。紙袋は底が抜けてただの筒になっていた。 帰宅するなり、皮膚と一体化した服をはがして洗濯機に放り込み、スーツを浴室に吊るし、革靴に丸めた新聞紙を詰めて、身体を拭いて乾いたTシャツに着替えてベッドに倒れこんだ。遠泳の後のように全身がだるくて、そのまま深い眠りの渕に沈みこんだ。


 翌朝、ドアを叩く音で目醒めた。
 白い天井で反射光がきらきらと踊っている。
 床に足を下ろすと踝まで水に浸かった。
 ベッドの下が浅いプール化していて、その中を腕程の太さの青い龍が泳いでいる。
 まだ、酒が抜けていないようで頭が痛む。
 龍が水面に顔を出して澄んだ水を噴水のように勢いよく吹き上げた。それを掌に受けて口に運ぶとえもいわれぬ甘露で、五臓六腑に染み渡り、たちまち頭痛が楽になった。
 ドアを叩く音は次第に激しくなっていく。
 龍の水飛沫に窓からの日射しが反射して室内に七色の虹がかかった。ああ、きれいだ。
 私は夏布団を頭から被り再び眠りに落ちた。

「移動祝祭」

 ある夏、ひなびた貧しい田舎町の埃っぽい空き地に巨大な天幕が現れた。
 闇のように黒いピラミッド型の天幕の横には、甲虫に似たトレーラートラックが幾台も蹲り、辺りはしんとして物音一つしなかった。
 うだるような暑さの一日がようやく暮れ、空が焼け落ちる頃、極彩色の人影が天幕からぞろぞろ這い出した。
 真っ赤な夕陽を背に筋骨逞しいジャグラーが松明を高く投げ上げ、老楽士が手風琴でジンタのメロディを奏でた。きらきら光る衣装を纏った肌も露なシャム双生児の美女が唄い、侏儒の道化師がチケットを撒いた。
 「サアサア、今宵一夜限りの特別興行だよ! 開幕は午前零時。見逃したら一生後悔すること受けあいだァ」
 寂れたメインストリートを練り歩いた。
 
 待ちに待った夜が来た。鼾をかく親達を尻目に子供達はそっとベッドを抜け出した。都合の良いことに、その夜に限って大人達はぐっすりと眠っていた。
 満月の金色のスポットライトの下、空き地には華やかな色彩と陽気な音楽が溢れていた。
 ジェットコースターと観覧車、メリーゴーラウンド、射的にロケット、色とりどりの風船とふわふわのコットンキャンディ、溶かしバターのたっぷりかかったポップコーンや甘いアイスクリーム、恐竜に怪物。子供達の大好物がオイデオイデと手招きをした。
 夏の浮かれたぬるい空気を漕いで幼い兄弟姉妹は手を繋ぎ、興奮に薔薇色に頬染めて我先に空き地を目指した。赤ん坊と病人以外は町中の子供達がつめかけた、チケットの無い子は赤い瞳の座長がマントの蔭に隠して入れてくれた。
 「いよいよ、世紀のショウの幕開けだァ! サア、急いだ急いだ、もうすぐ始まるよう」
 皆、踊るような足取りで天幕をくぐった。
 
 場内を縦横に駆け巡るピンスポット、ドラムロールが高らかに鳴り響く。子供達の歓声、獣達の咆哮、悲鳴、悲鳴、悲鳴、天幕に飛び散る夥しい赤、赤、赤。
 そして、子供達は闇に呑み込まれた。
 
 翌朝、天幕は跡形もなく消え去った。貧しい町は突然に潤い、人々の暮らし向きは楽になった。子供達の痕跡は消え、大人達は何事もなかったかのように口をつぐみ、単調な日々の営みを繰り返した。
 以来、午前零時をまわると家々の窓を風が叩き、遠くからジンタが流れてくるようになった。弾けるような嬌声や囁き、啜り泣きが聴こえ、赤い瞳が家の中を覗き込み、外壁や板戸には引っ掻き傷や小さな赤い手形が幾つも捺された。
 人々は鎧戸を固く閉ざして耳を塞ぎ、風のパレードが通り過ぎるのを待った。
 オイデ、オイデ、イッショニ、イコウヨ

「書淫記」

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