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伸縮怪談『波間で、手をふるように』   

 てのひら作家の方々からブログにコメントを戴き、私の伸縮怪談が採用されたと知りました。
 岩里藁人様、仲町六絵様、松浦上総様、ありがとうございました。

 オマケでつけた300字も印刷されたらしいです。(^^;

 自分では出来はわかりませんが、以下に拙作を掲載してみます。

■■■■■■■■■■

●共通タイトル
『波間で、手をふるように』

【1200字】

 閉店間際のコーヒーショップ、硝子の自動ドアが開いて肩を落とした中年サラリーマンが入ってきた。その背後から、スルリと黒い影が飛び込んだ。
 厨房の燈影にひらめく姿に身をすくませると、予想に反して蝶だった。茶と水色の見事なコントラストの大きな翅は、教会のステンドグラスのように精緻な模様だ。
 蝶の行方が気になりながらも、接客や片付けに追われているうちに見失った。
 水とガムシロップを含ませたティッシュをコーヒーソーサーに敷いてカウンターに置き、シャッターを降ろして扉に施錠した。
 その足で構内の階段を駆け降りて深夜の下り電車に乗った。携帯の着信履歴が無いことを確かめて、独り安堵の溜め息を吐く。

 翌日、早朝出勤して開店準備をしているとカラトリー・ケースのシルバーの上に昨夜の蝶がとまっていた。右の翅先が大きく千切れていて、翔べないのか金属に身を映してじっとしている。漆黒の細い触角と脚、柔らかくくねる腹。なぜか入院中の姉の化身のような気がして安全な高い棚にケースごと置いた。
 そのまま朝の繁忙時に突入して、慌ただしく働いていたが気がつくと湯気が立つエスプレッソマシンの側で静かに翅を開閉していて、慌てて店の隅のポトスに避難させた。外に放しても鳥の餌食だ、家で飼おうと決めた。
 様子を伺いながら仕事をしていたが、午前九時過ぎに遅番出勤した同僚に仕事を引き継いだ時にはいなくなっていた。

 店を出て、足元を見るとコンクリートの通路に蝶が蹲踞っている。手を伸ばすと炎に炙られた薄紙のようにひらりと舞い上がった。
 刹那、強い汐の匂いが鼻孔を掠め、朝のくすんだ駅の雑踏と鮮やかな青い海が二重映しになった。水飛沫の中を目的地に向かう人波、発着のアナウンスが小さくなり、波の音が響く、先を急ぐ人々の頭上をたくさんの浅葱色の花弁がふわふわと舞い踊っている。
 いや、花弁ではない、白く砕ける波頭を渡っているのは無数の蝶達だ。吹き付ける海風に身を委ね、薄くて脆い羽根で陽光に輝く水平線を越えてゆく。海鳥についばまれたり、力尽きて波間に散る個体もいるだろう。
 翅の欠けた一頭が掌の上に舞い降りて、頭をかしげて黒い複眼で私の顔を見上げた。呼び掛けようとしたが、ふわりと手の内を翔び立ち、仲間の群れに雑ざってしまった。
 腕を伸ばしても遥かに遠く届かない。

 次の瞬間、蝶達と海は消え、私は雑踏の中に佇んでいた。俄に周囲の喧騒が大きく聴こえて、通勤ラッシュを過ぎたコンコースに芳ばしいコーヒーの匂いが微かに漂っている。
 姉の身に何かあったのではないか……?
 胸騒ぎを覚えて急いで携帯電話を取り出すと、青い着信ランプが点滅していた。

【800字】

 深夜のコーヒーショップ、自動扉が開いて男性客の背後から黒い影が飛び込んできた。
 厨房の燈影にひらめく姿は、蝶だった。茶と水色の見事なコントラストの翅は、ステンドグラスのように精緻な模様だ。
 まもなく行方を見失い、諦めて店を閉めた。
 構内の階段を降りて電車に乗り、携帯の着信履歴が無いことを確かめた。今日も姉は一日をやり過ごしたと安堵の溜め息を吐く。

 翌朝、開店準備をしているとカラトリー・ケースの中に昨夜の蝶がとまっていた。右の翅先が大きく千切れていて、翔べないのかじっとしている。病気で入院中の姉の化身のような気がして、ケースごと棚に避難させた。
 様子を伺いながら働いていたが、午前十時に仕事を終えた時にはいなくなっていた。

 店を出ると足元の通路に蝶が蹲踞っている。思わず手を伸ばすとひらりと舞い上がった。
 刹那、強い汐の匂いが鼻孔を掠め、朝のくすんだ駅の風景と鮮やかな紺碧の海が二重映しになった。煌めく水飛沫の中を目的地に向かう人々、発着のアナウンスが小さくなり、波の音が大きく響く、先を急ぐ人々の頭上をたくさんの浅葱色の花弁がふわふわ舞う。 いや、花弁ではない、白く砕ける波頭を渡るのは無数の蝶達だ。海風に身を委ね、薄くて脆い翅で陽光に輝く水平線を越えてゆく。
 翅の欠けた一頭が掌の上に舞い降りて、頭をかしげて黒い複眼で私の顔を見上げた。姉の名を呼び掛けようとしたら、ふわりと手の内を翔び立ち、仲間の群れに雑ざった。
 腕を伸ばしても、遥かに遠く届かない。

 次の瞬間、蝶達と海は消え、私は雑踏の中に佇んでいた。周囲の喧騒が大きく聴こえてコンコースにコーヒーの香りが漂っている。
 胸騒ぎを覚えて、急いで携帯電話を取り出すと青い着信ランプが点滅していた。

【500字】

 深夜のコーヒーショップの自動扉が開き、男性客の背後から黒い影が飛び込んできた。
 燈影にひらめく姿は蝶だった。ステンドグラスのような茶と水色の精緻な翅。
 ふいに、蝶がテーブルに堕ちた。右の翅先が大きく千切れている。入院中の姉の化身のような気がして、ポトスの葉に避難させたが、閉店作業に追われているうちに見失った。
 店を出ると足元の通路に件の蝶が蹲踞っていた、危ないと手を伸ばすとひらり翔び立つ。
 刹那、強い汐の匂いが鼻孔を掠め、夜のくすんだ駅の風景と鮮やかな紺碧の海が二重映しになった。煌めく水飛沫の中を家路を急ぐ人々、発着のアナウンスが遠ざかり、波の音が間近に響く。疲れた群衆の頭上に無数の浅葱色の花弁が舞う。いや、花弁ではない、白く砕ける波頭を渡る無数の蝶だ。海風に身を委ね、薄く脆い翅で水平線を越えてゆく。
 翅の欠けた一頭が掌の上に舞い降りて、頭をかしげて黒い複眼で私の顔を見上げた。姉の名を呼び掛けると、ふわりと手の内を逃れて、遥か上空へと翔び去った。
 次の瞬間、蝶達と海は消え、私はコンコースに佇んでいた。周囲の喧騒が低く聴こえる。
 掌の携帯電話が悲鳴のように着信を告げた。

【300字】

 駅のコーヒーショップの扉が開き、客と一緒に黒い影が飛び込んできた。

 それは右の翅先が千切れた蝶だった。入院中の姉の化身のような気がして、視線で追っていたが間もなく見失った。

 店を出ると足元に蝶が蹲踞っていた、手を伸ばすとひらり翔び立つ。
 刹那、汐の香りが鼻孔を掠め、夜の駅の風景と紺碧の海が二重映しになった。
 煌めく波間を急ぐ人々、発着のアナウンスが掠れ、波の音が間近に響き、浅葱色の花弁が一面に舞う。
 いや、花弁ではない、無数の蝶達が脆い翅で波頭を渡ってゆく。
 翅の欠けた蝶が掌に舞い降りた。呼び掛けるとふわりと手の内を逃れ、遥か高みへ消えた。

 次の瞬間、私は雑踏に佇んでいた。
 懐の携帯が甲高く鳴り響いた。

(※300字小説は、ブランクは文字数に含めません)

■テーマは「虫の知らせ」です。(まんまですね)

 先日、職場の窓から翅の欠けたアゲハチョウが飛び込んできて瞬時に入院中の身内が思い浮かび、慌てた体験を物語にしました。通勤帰りの駅のスターバックスの片隅で携帯で打った話なので、駅構内のコーヒーショップを舞台にしました。

 書き終えた翌日、再び職場にアゲハチョウが飛び込んできて、同僚のOさんの茶色い髪にとまりました。
「Sさんだ、Sさんがお別れにきたのよ」とOさん、……同じ会社のSさんの告別式の翌日のことでした。私はSさんとは数度しか御会いしたことがありませんが、とても明るく元気の良い方でした。数ヵ月前から休職してご病気で入院されていて、最初の蝶が来た頃にお亡くなりになりました。そうか、会社の方々にご挨拶にいらしたのだと勝手に得心し、黙祷を捧げました。

 作中の蝶のモデルは、アゲハチョウではなくて渡り蝶『アサギマダラ』と某生物園で見た沢山の蝶達です。
『アサギマダラ 海を渡る蝶の謎』(佐藤英治著 山と渓谷社刊)を参考にさせて戴きました。

 今回は縮小怪談になってしまいましたが、500字を核にしてもう一度伸ばして拡大怪談も書けば良かった。1200→800→500→800→1200と書いたら、更に同じプロットの変化が楽しめたかも。

 ブログで勝山さんの伸縮怪談を拝読して、さすが、巧い、まさかの萌え怪談小説・てのひらラノベ? 面白い! と膝を叩きました。

 峯岸さんの伸縮怪談は、ポップでのんしゃらんとした独特の世界観でムーンライダーズの歌を思わせて面白かったです。変な喩えですみません。

 他の方々の御作も拝読したいです。

 個人的イメージは、300字小説はスナップ写真、500字小説はびいどろ玉の中の永久機関、または覗きからくり。
 そして、800字小説は……。  
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300字と1200字『喜雨』 小雨と大雨

【300字小説『喜雨』】

「こんちは、今日も暑いね」
 手拭いを首に、玄関から雨がやって来た。
「勝手口に回っておくれ、ホラホラそんなに雫をたらして、掃除したばかりのたたきが台無しになっちまうだろ」
 おかみさんが忌々しげに怒鳴りつける。
 ポツポツと忍び足で屋根を鳴らし、裏に回った雨は、盆の上の振る舞い酒で気が大きくなったらしく、がぜん勢いを増し、ザアザア轟音を響かせて、ひとしきり暴れ回る。
 と見る間に、すぐ白面に戻り、やがてフッツリと姿を消した。
「あいつはいなきゃいないで困るんだが、荒っぽくていけねえよ」
 旦那は溜め息を吐いたが、童子らにはすこぶる評判が良い。
 帰った後に雨戸をあけると、決まって置き土産の太鼓橋が天にかかって七色に輝いていたから。

(『遊歩人』08/08 76号掲載)

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 仕事から帰ったら、郵便受けに『遊歩人』が届いていました。

 昨年の夏に書いた掌篇を掲載して戴きました。

 この話は題名が気に入っていたので、先月のWEB幽読者投稿怪談にも同題で別の話を送っていました。

 『遊歩人』の話は雨を擬人化した話で、『WEB幽』の方は水神が暴れる(?)話です。実は昨年の台風の日の日記が元になっています。↓

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【1200字小説『喜雨』】

 連日、真夏日が続き、貯水池の水位がみるみる下がり、各地で節水が叫ばれ始めた頃、夜半に激しいスコールがあった。

 金曜の夜に暑気払いと称して同僚としたたか呑んで自宅の最寄り駅に帰り着くとバケツの底が抜けたような土砂降りでタクシー乗り場は長蛇の列だった。これでは何時間かかるかわからない、悠長に待っていられるものか。
 酔っぱらいの軽はずみで歩き始めた直後、強風に煽られたビニール傘は骨と皮が生き別れになり、透明な皮だけがバタバタと羽ばたきながら彼方へと翔び去った。
 駅前公園の敷き石に豪雨が降り注ぎ、それが強風におされて風紋が波のようである。街が海になっている、地表が波打ち際になって風が吹く度に波が打ち寄せる、強風に拐われそうだ。酔って火照った身体を打つ雨が心地良い、いっそ服を脱いだら楽だろう。魔物のようにうごめく街路樹、縦横に天を貫く稲妻、一足遅れで鬼太鼓のように激しく轟く雷鳴。白くけぶる雨の中を尾をひき流れる黄色や赤のヘッドライトやテールランプ。

 一際大きな稲光が電線に落ちたようで近くで派手に火花が散り、一拍おいて耳をつんざく轟音が鳴り響いた。しばらく歩くと足元からシャーシャーと音がして、見ると小指大の青いトカゲがしきりにこちらを威嚇している。口から線香花火のような細い火花をパチパチと吐き出す様に哀れをもよおして上着のポケットに入れるとしばらく暴れていたが、そのうちに大人しくなった。
 豪雨と小雨が交互にやってきて、そのたびに見える景色がかわる、厚さの違う雨のカーテンを幾重にもくぐり抜けて、やっとマンションに辿り着くと全身ぐしょ濡れで靴の中で金魚が飼えそうだ。紙袋は底が抜けてただの筒になっていた。
 帰宅するなり、皮膚と一体化した服をはがして洗濯機に放り込み、スーツを浴室に吊るし、革靴に丸めた新聞紙を詰めて、身体を拭いて乾いたTシャツに着替えてベッドに倒れこんだ。遠泳の後のように全身がだるくて、そのまま深い眠りの渕に沈みこんだ。

 翌朝、ドアを叩く音で目醒めた。
 白い天井で反射光がきらきらと踊っている。
 床に足を下ろすと踝まで水に浸かった。
 ベッドの下が浅いプール化していて、その中を腕程の太さの青い龍が泳いでいる。
 まだ、酒が抜けていないようで頭が痛む。
 龍が水面に顔を出して澄んだ水を噴水のように勢いよく吹き上げた。それを掌に受けて口に運ぶとえもいわれぬ甘露で、五臓六腑に染み渡り、たちまち頭痛が楽になった。
 ドアを叩く音は次第に激しくなっていく。
 龍の水飛沫に窓からの日射しが反射して室内に七色の虹がかかった。ああ、きれいだ。
 私は夏布団を頭から被り再び眠りに落ちた。

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 これは、伸縮小説ではなくて同題小説かしら。

 モチーフは同じで、内容が俄雨と台風くらい違います。
 〆は同じ虹ですが、改めて読み返すとどちらも主人公が酔っ払っているあたり……、生活を改めます。(^_^;

 私はPNが『みづは』(水妖)のせいか、気がつくと水に因んだ話を多く書いています。

 クトゥルー神話でも、ディープワンズ物がキモロマンチックで好きです♪

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