掌篇★ガチャポン

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44.『川のほとりで』 

 約束の場所に辿り着くと迎えの姿はなく、鮮やな花々が咲き誇る川辺で水面に映る過去を眺めた。

 火の粉の中、乳飲み子を胸に抱き、残る手で幼子の手をひき走る女、あれは若き日の母だ。防空頭布を被った私は姉様人形を握っている。

 セーラー服の私が友人と手をつなぎ、唄いながら通り過ぎる。

 仲人に手を取られ輿入れする白無垢姿の私。

 ふくらんだ私のお腹を愛しげに撫でる二十代の夫。

 振袖姿の娘に腕を組まれ、カメラの前で笑う中年の私。

 杖にすがってよろけ歩く私は中学生の孫に支えられた。

 手をひかれ、ひき、いつのまにか又ひかれていた。「楽しかったね」皺だらけの掌に囁きかける。

 迎えに来た夫の手を取り彼岸へ渡る姿が、最後に川面に揺れた。
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【40】.『天中盃』

「大事な話があるから早く帰って」
 妻の言葉に生返事で家を出た。

 今夜は帰れないさ。
 甘美な酒、若い美女との情事、これ以上に大事なものがこの世にあるだろうか?
 このひとときの為につまらない仕事をこなし、気を遣い媚を売り、会長の孫娘と結婚し、現在の地位を手に入れたのだ。

 超高層ホテルのスウィートルームは摩天楼に手が届きそうだ。フルートグラスの金色の液体の中で無数の泡が踊っている。
「知ってるかい? フランスではシャンパンを飲むことを『星を飲む』って言うんだ、君が望むなら星だって手に入れてあげるよ」
「本当? 実はあなたを下さいって奥様にお願いしたの」
 一息で飲み干して愛人が微笑んだ。

 瞬時に宇宙が消滅した。
                 (『遊歩人』掲載)

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