掌篇★ガチャポン

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36.『ゆきねこ』

 やけに冷えると思ったら扉の向こうが雪国になっていた。
 空は暗く、薄墨の彼方から羽根に似た雪がきりもなく落ちてくる。

 玄関先の牛乳瓶に積もった雪がフルフルと震えて、目をこらすと真っ白な仔猫だった。小さな口を開け必死で鳴いているが声が聞こえない。

 皿に牛乳を注ぐと待ちかねたようにポコポコと雪原が持ち上がり、無数の白猫が現れてたちまちのうちに平らげた。
 猫たちは赤い口腔で声無き訴えを繰り返す、雪が音を全て飲み込んでサイレント映画の一場面のようなモノクロームの世界だ。

 気がつくと僕は猫たちに囲まれていた。
 灰銀の瞳が僕を見つめ、薄氷の爪が皮膚を切り裂き、鋭い氷柱の牙が喉に食い込んだ。
 僕の叫びと血潮も柔らかな雪に吸い込まれた。
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【35】.『雪の日』

 ドサリという音で目が覚めて、窓を開けるとぼたん雪だった。
「記録的な大雪です」
 そう言った直後、アナウンサーは三メートルの雪片に潰された。

 庭の南天のまわりについた小さな足跡を辿っていくと雪うさぎが輪になって嬉しそうにダンスしていた。

 立ち寄ったコンビニでは、白くまがせっせとカキ氷をアイスクリームケースに詰めている。

 二時間遅れで待ち合わせの店に着くと彼女の怒りのブリザードで氷の宮殿になっていた、バナナケーキで釘が打てる。

 冬の風物詩『ペンギン腹スキー選手権』を楽しんだ後、犬ぞりタクシーで帰ることにした。
「雪の日ってどことなくロマンチックね」
 彼女は呟いたが、僕は雪だるま式に増える料金メーターが心配だった。 

       (『遊歩人』掲載)

34.『スノードーム』

「あなたの思い出を形にします、十分間のタイムトラベル」

 そんな謳い文句でタイムドームが発売された。
 掌に乗る半円型の装置に思い出の場面が立体的に映し出される。希望者の脳をスキャンして、望みの記憶を最長十分間の映像で再生する完全受注生産の高価な玩具だ。

 私は渋る業者に無理を言い、金に糸目をつけずに二十四時間再生の特大ドームを発注した。
 しかし、完成品の画質は粗く、作り直しを命じた。
「今度は完璧です」
 担当者は再納品すると逃げるように去った。

 早速、ボタンを押すと淡雪の舞う公園が映った、五十年前の記憶そのままだ。初恋の少女が駆けてくる、彼女の顔がクローズアップされ……。

 瞼の奥の思い出は雪のように儚く美しい。

【33】.『ロボットと犬』

 ネジは機嫌が悪いらしく何度呼んでも知らんふりをしている。食事に手をつけずずっと寝そべったままだ。
 いつもはうるさくじゃれつき邪魔ばかりするのに。
 ゼンマイは世話を諦めて外に出た。
 博士に任されたもう一つの仕事、死んだ人間達の埋葬をする為に。
 しかし、惑星は広く、いくら埋めても終らない。
 
 バキリと鈍い音がして最後の脚が折れた。もう替えの部品は無い。
 脚を引いて作業を続けていると空から雲のかけらが落ちてきた。
 それはきりもなく降りつもり、白く地表を覆っていった。
 ゼンマイは車に戻り、腐敗したネジを抱くと白いものの上に横たわった。自分の代わりに全てを埋めてくれる誰かが現れたのだ。

 まもなくモニターがふさがれ静寂が訪れた。

(『遊歩人』掲載)

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