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掌篇★ガチャポン

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【9】.『梅雨の晴れ間に』

 久しぶりの好天、家中の掃除を終えて畳の上にごろんと横になり、窓からの日差しにうつらうつらしていると視界の隅に動くものがある。
 消えたTV画面に庭の景色が映り込んでいて、小柄な背中が動いている。

 麦藁帽子に首にはタオル、洗いざらしのブラウスに軍手をはめた見慣れた姿だ。

 ああ、母が楽しそうに庭仕事をしている……夢うつつにそう思った。
 花殻を摘み、雑草を抜き、肥料をまき、まめまめしく働いている。

(がんばりすぎると、また腰にくるのに……)

 少しでも動けば消えてしまいそうで、私は息を殺して眺め続けた。

「ちょっと出掛けて来る」

 玄関から聞こえる父の声に気をとられた瞬間、その姿は消えた。
 
 私は形見の帽子をかぶり庭に出た。
                    (『遊歩人』掲載)
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【6】.『アトムの頃』

「お豆腐二丁買っといで」

 テレビ漫画を観ていたら、母に命じられた。二つ上の兄は知らん顔。

「ほら、お父さんが帰ってきちゃうから早く」

 せかされて渋々家を出た。
 隣家からは、ライスカレーの香ばしい匂いがただよってくる。

「いつも偉いね、オマケだよ」

 豆腐屋のオヤジに豆腐と一緒に油紙の包みを渡されて礼も言わずに受け取った。
 夕焼けが怖いほど赤くて逃げるように駆けだしたら砂利道でつまづき、買い物の包みを下敷きに転んだ。
 ベソを書きながら裏口の木戸をくぐると、風呂焚きをしていた祖父が優しく頭を撫でてくれた。

「日曜日に家族全員で万博に行くぞ!」

 父親の爆弾発言に夕餉の席は騒然となり、味噌汁のお椀から、お揚げが飛び出した。
                   (『遊歩人』掲載) 

【5】.『夏はよる』

 真夜中、煙草を買いに家を出た。
 
 児童公園の中央に櫓が組んであり、橙色の提灯が輝いていた。
 返す手、ひく足、着物姿の人々が音頭にあわせて白い花のように揺れている。

「さあ」

 少女に手をひかれ、輪の中にひきこまれた。
 気持ち良く腕が伸びる、すんなりと脚が動く、体が勝手に踊り出す。
 音頭の拍子はどんどん早く、踊りはますます激しく。

「よいよいよい、えっさっさっ」

 ぐるぐると回る巨大な意識の一部に溶け込む快感、老婆も老人も少年も中年男も私と区別がつかない。
 疲れを知らず体は軽く、ふわふわと宙に浮く心地だ。そして、回りながら、満月に吸い寄せられていくようである。

 見下ろすと、公園のベンチに私の抜け殻が座っていた。
                     (『遊歩人』掲載/『きょとん!』収録)

【4】.『終着の夏休み』

 先月までの人混みが嘘のように人影の消えた海岸で、打ち寄せる波がペットボトルと戯れる。

 風に飛ばされた麦藁帽子、一度も着なかった水着、使われなかったチケット、半分だけ捺されたラジオ体操のスタンプ、途中までの朝顔の観察記録、壁にかかったカレンダーは八月のまま……。

 犬達はリードを噛み切って町を彷徨い、猫は金魚鉢を襲撃する。
 TVは沈黙し物騒な事件を語ることもない。
 路肩にとまる色とりどりの車は死んだ甲虫のよう。

 学校もオフィス街も遊園地も空港も人っこ一人いない。
 飲みかけのアイスコーヒーは蒸発してカップに黒い筋を残す。
 海も山も空もとても静か。

 公園の中心でひぐらしが愛を叫んでいる。
                    (『遊歩人』掲載/『きょとん!』収録)

【3】.『DV』

「ナニやってんだッ」
 
 突き飛ばされて、柱の角に後頭部を強くぶつけた。一瞬、記憶が飛び、目の奥で火花が散った。

 主人と暮らして十年。はじめは優しくて、とても大切にしてくれた。月日がたつにつれて対応が荒くなり、最近では家電以下の扱い。
 いっそ追い出して欲しいけれど自分からは言い出せない。度重なる暴力に耐えるだけの毎日。
 後頭部に手をやると、頭蓋が陥没していた。

「役立たずめ」

 傷ついた私に背を向ける主人。その無防備な背中に、勢いをつけて踵落としをお見舞いする。
 ついで柱を引き抜くと簡単に家が崩れた。
 先程の衝撃でロボット三原則に基づく制御回路が壊れたようだ。

 もう私を止めるものはない。私は自由。私は無敵!
                      (『遊歩人』掲載/『きょとん!』収録)

【2】. 『面影の女』

 夜半、頭を洗っていると背中にペタリときた。ぬるま湯の入ったゴム風船に似た乳房の感触。熱い湯を浴びると泡と共に消えた。湯殿の曇った鏡には俺しか映っていない。

 また、あの女だ。別れて一年も経つのに、気配がつきまとって離れない。十も年上の女で、蛇革の財布を使い、長い黒髪に一房の白髪があった。
 捨てて間もなく、妙なことが起こり始めた。
 夜半に枕元で足音がしたり、頬を撫でられたり、覆い被さる重みを感じたこともある。その度に、静脈の透けた足首や骨張った指先、たるんだ下腹が思い出された。
 ただ、いつの間にか顔を忘れている。

 手拭いを頭に湯船に浸かったら、二の腕に痛みを感じた。見れば噛み跡が浮いている。
 薄い唇を思い出した。  (『遊歩人』掲載/『きょとん!』収録)

【1】.『宵宮』

 ぶあああ!
 
 風呂上がりに扇風機の前で遊んでいたら、ふざけてないで身体を拭きなさいと叱られた。
 ぱたぱたぱたと叩かれた天花粉がむせるよう。
 
 朝顔柄の浴衣に赤い絞りの帯を締められ、下駄履きで前のめりに歩く。急ぐと危ないよ、手を離さないで。だって早くおいでとお囃子が呼んでる。

 お稲荷さんの境内は提灯が数珠繋ぎで露店には子供らが鈴生り。焼きとうきびや杏飴、射的に輪投げ、水風船釣り、四角い水槽の中で沢山の金魚が泳いでる。

 父の指先を赤い金魚がひらりとかわす。翻る尾びれがあたしの背中の帯にそっくりと思った途端、捕まった。

 ねえ、お父さん。家に着いたらここから出してね。ビニールごしに見上げる父の背に大きな金魚が負ぶさっている。

  (『遊歩人』掲載/『三百字小説』収録)

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 上は、オンデマンド雑誌『遊歩人』で三百字小説の一般募集が始まって、すぐに投稿した作品です。
(三百字小説とは読んで字の如く、ブランクを含まない記号と文字数が三百字以内の掌編小説の事)

「翻る尾びれ」以前の記述は、そのまま子供時代の思い出の描写で、深く考えずに書いたものを幸運にも掲載して頂きました。
 これが三百字小説にハマったきっかけです。書いてみるとパズルのようで面白いんですよ、皆様もお試しあれ。

♪ 赤いべべ着た可愛い金魚 おめめをさませば御馳走するぞ
  赤い金魚はあぶくをひとつ 昼寝うとうと夢からさめた (作詞:鹿島 鳴秋)

 金魚はちっちゃくて、色鮮やかで、安いゼリー菓子みたいにテラテラしてて、妙に生っぽくて、よくみるとグロテスクで、私の中では可愛さと不気味さの境界線上にいる愛しくて少し怖い生き物です。

 折々に携帯で書いた三百字小説を掲載します、どうぞ御高覧くださいませ。

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