FC2ブログ

掌篇★ガチャポン

携帯掌篇のブログです。無断転載厳禁!

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

没投稿怪談

『花酔い』

 決算前で会社に泊まり込む日が続き、私は疲れ果てていた。屋台のコップ酒一杯で酔い、今日こそは早く帰りたいと近道を選んだ。 その児童公園は昼でも人影がまばらで暗く嫌な感じがする場所でいつもは迂回していた。
 誰もいない園内でブランコが風に押されてキィキィと鳴いている。街灯に桜が白く浮かび上がり、花弁がはらはらと舞う。ホームレスさえ居ない、こぢんまりとした平凡な児童公園だ。なんだ大したことはないと千鳥足で通り過ぎようとした時だった。

 後ろからタオルで口を塞がれて引き倒され、大人に体重をかけてのしかかられ体を押さえつけられた。悲鳴は厚い布に阻まれてくぐもった音に変わった。大きな手が乱暴に着衣をまくり上げ、下着に滑り込み体をまさぐる。男の黒い穴のよう目からは欲望が覗いている。肌が粟立つ 気持ちが悪い 痛い 助けて 嫌あああ 誰か 
お母さん!
 あたしは小さな手足をばたつかせて必死の抵抗を試みた、ズック靴で男の顎を思いきり蹴り上げる。太い湿った指が首にかかり、強く締め付ける、苦しい、あたしは声にならない叫びをあげる。なんで? どうしてこんな目に遭うの? 怖いよ 助けてえぇぇ!

 自らの慟哭に我に返ると鞄とコンビニの袋を提げて桜の下に佇んでいた。涙を流し、震えながら自分の体を抱き締めた。私は身長百八十センチ、無精髭を生やした三十男だ。
 桜の木には、『さくらちゃん、安らかに』と彫られた色褪せたプレートが付いていた。
 ああ、そうか、“さくらちゃん事件”はここで起こったのか……。
 十数年前、七歳の幼女が下校途中に誘拐され無惨な姿で発見された。被害者の遺体はバラバラに刻まれてゴミ袋に詰められ、児童公園の屑籠に捨てられていた。犯人は近隣に住む若い男でいたずら目的の犯行だった。
 事件後、遺体発見現場に被害者の両親が鎮魂の願いを込めて被害者の名前と同じ桜の若木を植えたとニュースで見た憶えがある。
 私は桜の幹に手を当てて「もう大丈夫、辛かったね、怖かったね」と何度も呟いた。
 桜は悠然と夜空に枝を伸ばし、薄紅の花を惜しげもなくこぼしている。この桜の歳月はそのまま、彼女が重ねるはずだったものだ。

 帰宅して袋からグラビア雑誌を取り出したが、表紙を飾る少女タレントの扇情的な水着写真が何故か痛々しく思えて、とても開く気になれなかった。
 酔いを醒まそうと熱いシャワーを浴びると、ついてきた花弁がひらりと足許に流れた。
「ねぇ、どうして?」
 傍で囁くあどけない声。
 湯殿の鏡に映る少女の蒼醒めた首と花のような唇に、私は答える言葉を持たなかった。
 熱い湯を浴びても体が温まらず、瘧のような寒気がしばらく消えなかった。

■■■■■■■■■■

 今月頭に投稿した怪談が没確定そうなので曝し首にしてみます。(笑)

 これも先月末に公園で転んだ恨み(?)で書きました、一転びで掌篇二篇。お得なんだか損なんだかわかりません。
スポンサーサイト

56.『白姫の衣』

20080123223713
「雪は溶けるとどこへいくの」
「人と同じで天に昇るよ」
「雪の色は?」
「雲の白んなる。お前の頬の朱さも、いつか花の色んなる」
 私が幼い頃、祖母は何を訊いても答えてくれた。

 一年振りに会う祖母は穏やかに眠っていた、白寿に手が届く歳だった。
 母の故郷の風習で綿を伸ばして故人に着せ掛ける。綿で着物を作り、帯を作り、綿帽子を作る。まっ白い花嫁御寮は傘と杖と草鞋を持って彼岸へと輿入れする。
「これで色打ち掛けにするんよ」
 叔母に薄紫の蘭を渡された。白や黄の菊の献花で、華やかに着飾った祖母は花に添われて煙になった。

 葬場の帰り道、初雪が舞い降りた。
(もう帰ってきちゃったの? おばあちゃん)

 掌の綿雪は命のように儚く溶けた。

*゜。○。゜*゜。○。゜*゜。○。゜*゜。○。

 雪が降りましたね。

 昼間、電車の窓から見た家々はパウダーシュガーを振りかけたガトーショコラやウェハースのようで何だかおいしそうでした。
 キンと寒い日は自分と世界の境界がはっきりして、自らが冷気でぐるりとふちどられるようで面白くて好きです。って大人気ないですかね?

 上の話は、友人の故郷の葬儀の風習をもとに書きました。
 私の書く話は10?90%の割合で本当がまざっています。実際に起きたことだったり、書いた時の気分だったりですが。
 半ば日記のような独り言のようなへろへろした代物ですが、多少なりとも気分を共有していただければ幸甚です。

 今夜は冷えますのでくれぐれも風邪に気を付けて、暖かくしてお過ごしください。(^-^)

▲画像は、こたつで眠りこける実家のわんこです。本文と全く関係ありませんがやたらと幸せそうなので。 

44.『川のほとりで』 

 約束の場所に辿り着くと迎えの姿はなく、鮮やな花々が咲き誇る川辺で水面に映る過去を眺めた。

 火の粉の中、乳飲み子を胸に抱き、残る手で幼子の手をひき走る女、あれは若き日の母だ。防空頭布を被った私は姉様人形を握っている。

 セーラー服の私が友人と手をつなぎ、唄いながら通り過ぎる。

 仲人に手を取られ輿入れする白無垢姿の私。

 ふくらんだ私のお腹を愛しげに撫でる二十代の夫。

 振袖姿の娘に腕を組まれ、カメラの前で笑う中年の私。

 杖にすがってよろけ歩く私は中学生の孫に支えられた。

 手をひかれ、ひき、いつのまにか又ひかれていた。「楽しかったね」皺だらけの掌に囁きかける。

 迎えに来た夫の手を取り彼岸へ渡る姿が、最後に川面に揺れた。

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。